うつ病について

うつ病とは

・気分が落ち込む病気。
・ありふれた病気で、誰でもかかる可能性がある。
・きちんと治療せずに、症状が長引いている人も多い。
・性格の弱さや怠けではない。


うつ病は、気分が落ち込んで何かをしようという気力がなくなったり、周りのことに興味がなくなるなど、日々の生活で充実感が得られにくくなる病気です。人間は、ストレスを感じると、エネルギーの消費を抑え、その後の生活に備えようとします。つまり、うつ病は、ストレスに対する一種の防御反応とも言えます。現在のようなストレス社会では、誰にでも起こりうる病気なのです。これまでの疫学的な調査によれば、一生涯のうちにうつ病を発症する確率は、3-7%と言われています。まれな病気ではありません。
しかし、誰にでも起こりうる病気だからといって、軽く考えるのは危険です。うつ病は、強い精神的な苦痛を伴う病気で、場合によっては、自死に至ることもあります。自死者の中には、うつ病の患者が多く含まれると考えられます。きちんとうつ病の治療をしていれば、死なずにすんだかもしれません。ところが、うつ病になった人の7割以上は、医療機関を受診していません。うつ病という病気は、治療を受けなくても自然に回復することがありますが、再発を繰り返し、治りにくくなってしまうこともあります。早い段階で、治療につながってください。

うつ病の症状

・うつ病の代表的な症状は、気分の落ち込みと、喜びの感覚が失われること。
・気分の変化だけでなく、身体症状も出現する。
・抑うつ症状が2週間以上続いていないと、うつ病とは診断しない。


うつ病の特徴は、「気分が重く沈み込む」という症状と「何をやっても楽しくない」という症状です。どちらかの症状が2週間以上続かないと、うつ病とは診断しません。さらに、うつ病の人によく見られる症状として、「食欲がない」「疲れやすい」「よく眠れない」「集中できない」「動きが遅くなる」「必要以上に自分を責める」などがあります。 また、うつ病では、身体的な症状を引き起こすこともあります。「頭痛」「倦怠感」「肩こり」「胃の痛み」「下痢・便秘」「発汗」「息苦しさ」などがよく見られます。こうした身体症状が強く訴えられる場合、身体症状に目がいき、うつ病が見逃されてしまうことがあります。このような、「仮面うつ病」にも注意が必要です。



うつ病の中核症状(傳田健三)
■精神症状
 興味関心の減退:好きなことも楽しめない、趣味にも気持ちが向かない
 意欲・気力の減退:何をするのも億劫、気力がわかない、何事も面倒
 知的活動の減退:何も頭に入らない、能率の低下、集中力・決断力の低下、成績の低下
 抑うつ気分:気分が沈む、気が滅入る、寂しい、涙もろくなる
■身体症状
 睡眠障害:寝つきが悪い、途中で目が覚める、ぐっすり寝た気がしない、朝早く目が覚める
 食欲障害:食欲低下、体重減少(期待される体重増加がない)、時に食欲亢進、体重増加
 身体のだるさ:全身が重い、疲れやすい、身体の力が抜けたような感じがする
 日内変動:朝が最も悪く、夕方から楽になることが多い(逆のパターンもある)



中核症状とは、うつ病の根底に存在する生物学的変化から生じるもので、誰にでも同じような形で体験されるものです。うつ病の基本症状で、軽症のうつ病でも存在します。
そして、このような抑うつ症状が強まると、次第に2次症状が出現してきます。2次症状は、中核症状の体験が各個人によって加工されたもので、不安、憂うつ、焦燥、いらいら感、悲嘆、悲哀などの感情や、自傷行為、自殺企図、引きこもりなどの行動が含まれます。2次症状は、中核症状の存在を前提とするとある程度理解できるもので、年齢、性別、性格、生活経験、社会習慣などによって変化し、きわめて多様なことが特徴です。
しかし、これらの症状があっても、うつ病とは気づかず、自分の心が弱いからだと考え、治療にはつながらないこともあります。

うつ状態とうつ病の診断

・うつ病とうつ状態は異なる。
・うつ病以外の原因からも、うつ状態になり得る。
・うつ病の診断には、他のさまざまな原因を区別する必要がある。
・とくに双極性障害(躁うつ病)との区別が必要。


うつ症状が中心の病態を、「うつ状態」といいます。
うつ症状は、うつ病の時にだけ出現するわけではありません。「うつ状態」にはうつ病以外のものも混じっています。
たとえば、身体疾患や薬剤なども、うつ状態を引き起こすことがあります。また、他の精神疾患によって、うつ状態が生じていることがあります。うつ病と診断するには、これらによるうつ状態を除外しないといけません。
精神疾患では、統合失調症、社会不安障害、パニック障害、強迫性障害、適応障害、発達障害などを除外します。とくに、双極性障害との区別は、最も重要です。
双極性障害(躁うつ病)は、躁(気分の高揚)とうつを繰り返す病気です。うつ病と双極性障害は、全く別の病気と考えられています。同じようなうつ状態であっても、治療が異なるのです。双極性障害のうつ状態(うつ病エピソード)では、抗うつ薬を使用すると、病状の悪化を招く可能性があります。
簡単な問診やチェックリストだけから、「これこれの症状があるから、うつ病です」「抗うつ薬を処方しましょう」というわけにはいかないのです。


うつ病の診断のために除外するもの(代表的なものだけ)
A. 身体疾患によるうつ状態
 ①内分泌疾患(甲状腺機能低下症、クッシング症候群) 
 ②脳の病気(脳梗塞、パーキンソン病、認知症、脳腫瘍)
B. 薬剤によって引き起こされたうつ状態
 ①依存性のある薬物(アルコール、覚醒剤、麻薬)
 ②身体疾患の治療薬(インターフェロン、プレドニゾロン、レセルピンなど)
C. 他の精神疾患にともなううつ状態
 ①統合失調症
 ②双極性障害
 ③社会不安障害
 ④パニック障害
 ⑤強迫性障害
 ⑥適応障害
 ⑦発達障害

うつ病を発症するきっかけ

・うつ病の発症には、何らかのストレスが関係していることが多い。
・周囲の人から見ると喜ばしい出来事であっても、ストレスになることがある。


うつ病を発症する前には、何らかのストレスを体験していることが多いようです。
代表的なものとしては、「人間関係の変化やトラブル」、「環境の変化」、「体調の変化」などがあります。

家族や親しい人との死別、離婚、失恋などの「喪失体験」や、コミュニケーションのずれが生み出すトラブルが発症のきっかけになることもあれば、引っ越し、結婚、出産、進学、就職、昇進などの環境の変化がきっかけになることもあります。これらの中には、周囲の人から見れば喜ばしい出来事で、ストレスの原因になるとは思えないものもあります。しかし、本人にしてみれば、環境が変化することで、「責任を果たさなければならない」「しっかりしなければならない」「期待に応えなければならない」という精神的なプレッシャーを強く感じるかもしれません。何にストレスを感じるかは、人によって大きく異なります。また、病気や女性ホルモンの変化(月経、出産、更年期など)といった体調の変化が、うつ病のきっかけになることもあります。


うつ病になりやすいタイプ

・他の人に頼らず、自分一人で頑張ろうとする人は、うつ病になりやすい。
・自分にむち打つ人は、ちょっと危険。
・うつ病になるかどうかは、体質的な要因と、性格と環境の相互作用で決まる。


以前、うつ病は、「几帳面」で「神経質」な「こだわりが強い」「まじめ」な人や「一人で頑張る」人がかかりやすいと言われていました。これらの特徴をもつ人は、社会的には高い評価を受けることが多いのですが、実はうつ病に関しては好ましくないと言えます。こういう人は、「こうすべきだ」という考えにとらわれやすいのです。過労で心身ともに限界に達しているような状態でも、助けを求めることができず、もっと頑張らなければいけないと自分にむち打ってしまいます。しかし、作業能率は低下し、思うような結果を残すことはできません。そのことで、いっそう疲弊感を強め、精も根も尽き果ててしまいます。この悪循環でうつ状態に陥ってしまうのです。
最近では、いろいろなタイプのうつ病が知られるようになり、必ずしも几帳面なタイプの方だけがうつ病になるわけではないと考えられています。 うつ病になるかどうかは、体質的な要因と、性格と環境の相互作用で決まると考えていいでしょう。
うつ病は、誰もがかかる可能性のある病気です。決して、ダメな人がかかる病気ではありません。本人の気持ちの切り替えで何とかなるというものでもありません。うつ病にかかることは、恥ずかしいことではないのです。
何らかの症状に気づいたら、速やかに精神科や心療内科などの専門医を受診してください。眠れないからといって、アルコールを使用すると、依存状態になりやすいので危険です(*1)。


*1 アルコールは、睡眠薬より耐性を生じやすいので依存をきたしやすい。また、入眠効果は得 られるが、睡眠の質は下げる(中途覚醒も多い)ので、疲労がたまりやすい。

うつ病と脳の働き

・うつ病では、脳の中の神経伝達物質の機能が低下している。
・脳の神経機能に変調が起きるという意味では、心の病気というよりも身体の病気。


脳の中には、数百億から一千億の神経細胞があり、これらの神経細胞はそれぞれ突起を伸ばしてネットワークを作っています。感情や思考などの脳の活動は、ネットワークを形成している神経細胞の働きによって生まれます。ネットワーク内での情報は、神経細胞から「神経伝達物質」が放出され、それが次の神経細胞に受け取られることで伝わっていきます。
うつ病では、長期間ストレスにさらされることなどにより、この神経伝達物質があまり機能しなくなっているようです。その結果、抑うつや興味・関心の低下などの感情や思考面の症状(一部脳機能の低下)が生じてきます。
神経伝達物質にはいろいろな種類がありますが、うつ病に関連しているものは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンだと考えられています。 


うつ病の治療

・単なる気持ちの問題ではなく、病気の状態。適切な治療が必要。
・ゆっくり休養をとることと、薬を使った治療が有効。
・環境の調整や、カウンセリングも役に立つ。
・きちんと治療を受ければ、数ヶ月で症状は安定する。
・再発を防ぐことが重要です。


うつ病は、気の持ちようでどうにかなるものではありません。脳の機能が低下している状態ですので、専門的な治療が必要です。
うつ病の治療で最も重要なのは、ゆっくり休養をとることです。十分な休養なしには、どんな治療も成功しません。場合によっては、入院治療が望ましいこともあります。
次に重要なのは、薬を使用することです。うつ病に対する治療薬を、抗うつ薬といいます。抗うつ薬は脳機能の変調を改善させます。抗うつ薬による治療によって、うつの症状は軽くなり、症状の持続期間も短くなります。
また、心身ともにゆっくり休めるように、家庭や職場の環境を整えていくことも大事です。家族や職場の人に今のつらさを理解してもらうことは、うつ病に苦しむ人にとって大きな支えになります。
さらに、「カウンセリング」や「精神療法」などの心理的治療も行われます。これは、考え方や気持ちを整理していくことによって、精神的な苦痛を軽くしていく治療法です。
これらの適切な治療を行い、生活を工夫していけば、数ヶ月で症状は安定してきます。必ず治る病気なので、あきらめてしまわないことが大切です。
うつ病は、再発を繰り返すことも多い病気です。いったん症状が改善したあとは、症状の再発を防ぐことが重要になります。

うつ病と双極性障害

・うつ病のうつと双極性障害のうつは、区別できない。
・同じうつのようだが、治療は異なる。
・うつ病のうつなのか双極性障害(躁うつ病)のうつなのか、見分けないといけない。


「うつ状態とうつ病の診断」の項目で少し触れましたが、双極性障害という病気があります。
双極性障害は、躁(あるいは軽躁)の状態とうつの状態を繰り返す病気です。
その時点の症状だけからは、うつ病のうつ状態と双極性障害のうつ状態を、区別することはできません。 たとえ双極性障害であっても、うつ状態で受診し、これまでの躁状態(あるいは軽躁状態)の存在がわからなければ、うつ病と診断するでしょう。また、それまではうつ状態しかなかったものの、その後の治療経過で躁状態(あるいは軽躁状態)が出現し、双極性障害であることが判明することもあります。
うつ病のうつ状態と双極性障害のうつ状態では、同じようなうつ状態でも治療法が全く異なります。
うつ病の治療では、抗うつ薬を使用します。一方で、双極性障害のうつ状態では、抗うつ薬を使用しても効果がなく、病状の悪化(躁状態の出現や病相の繰り返し)を招く可能性があります。
その時の症状だけからは、双極性障害のうつ状態とうつ病のうつ状態を区別することはできないのですが、患者さんやご家族からこれまでの病歴を丹念に聴き、この2つを見分ける(予測する)必要があります。

抗うつ薬について

・抗うつ薬は、脳内の神経細胞に作用し、情報の伝達をスムーズにする。
・飲み始めてから効果が出るまでには時間がかかる。


うつ病では、脳の中の神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンやドーパミン)の働きが低下し、神経細胞間の情報伝達がスムーズにいかなくなっています。抗うつ薬は、この不足している神経伝達物質を増やす働きがあります。その結果、沈み込んだ気分や意欲や興味を改善する効果が生じます。また不安をやわらげたり、痛みや倦怠感などの身体的な不調を改善する効果もあります。ただし、不足してしまった神経伝達物質が元のレベルに回復し、うつ症状が改善するまでには時間がかかります。



■抗うつ薬の種類
①三環系抗うつ薬
 ・第一世代の抗うつ薬。
 ・抗うつ作用は強いが、副作用も多い。
 ・副作用としては、口渇、便秘、尿閉、めまい、動悸、眠気、起立性低血圧などがある。
②四環系抗うつ薬
 ・第二世代の抗うつ薬。
 ・三環系抗うつ薬に比べ、抗うつ作用は弱いが、副作用が少ない。
 ・代表的な薬剤としては、テトラミド、テシプール、ルジオミールなどがある。
③選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
 ・神経細胞末端のセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する。
 ・三環系抗うつ薬と同等の抗うつ作用を持ち、副作用は少ない。
 ・投与初期に、悪心・嘔吐、下痢などの副作用が生じる可能性がある。
 ・まれに、セロトニン症候群(*1)を引き起こす可能性がある。
 ・若年者に使用すると、自殺のリスクを高めるという報告がある。
 ・うつ病だけでなく、パニック障害、強迫性障害、社会恐怖など幅広い疾患に使用される。
 ・使用可能な薬剤は、ルボックス、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロ。
④セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
 ・神経細胞末端のセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。
 ・副作用は比較的少ないが、頭痛や排尿困難を生じることがある。
 ・使用可能な薬剤は、トレドミン、サインバルタ、イフェクサー。
⑤ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬 (NaSSA)
 ・セロトニンやノルアドレナリンの分泌量を増やすことで抗うつ効果が生じる。
 ・使用可能な薬剤は、レメロン/リフレックス。


*1 セロトニン症候群:脳内のセロトニン活性の亢進により発症するもので、強い焦燥感、錯乱、発汗、幻覚、反射亢進、ミオクローヌス、戦慄、頻脈、振戦などをともなう。

抗うつ薬を飲む時の注意点

・原則として単剤で使用する。 
・毎日欠かさず十分な量を飲む。
・一度にたくさん飲んでも、うつ病がよくなるわけではない。
・調子がよくなっても、薬をやめてしまうと症状が再燃する可能性がある。
・薬の減量や中止は、担当医師とよく相談して決める。
・時に有害反応を引き起こすことがある。


抗うつ薬の効果を十分に引き出すためには、薬の飲み方にも注意を払う必要があります。
抗うつ薬は、原則として単剤で使用します。二種類以上の抗うつ薬を併用しても、効果が上がることは期待しにくいし、副作用の危険性が増すからです。最初は少なめの量から始め、様子を見ながら少しずつ量を増やしていきます。
投与初期に生じる副作用は、服用を続けるうちに改善することが多いので、軽度の副作用であればそのまま服用を続けたほうがいいでしょう。副作用が強い場合には、薬の変更を考えます。薬の副作用は、薬をやめればなくなり、後遺症を残すこともありません。
抗うつ薬には即効性はなく、しばらく飲み続けていくことで効果が現れます。通常は、飲み始めてから効果がでるまでに、2週間くらいかかります。服用直後に効果が現れないからといって、飲むのをやめるべきではありません。一度にたくさん飲んでも、うつ病がよくなるわけではないので、医師の処方どおりに服用してください。
また、症状が軽くなったからといって、自己判断で薬の量を減らしたり中止するのはよくありません。ある程度症状が改善しても、うつは完治したわけではありません。不安定な状態はしばらく続きます。ちょっとしたストレスを契機に、症状が再燃する可能性がありますので、症状が完全に消失した後も、しばらくはそのままの量で服薬を続けた方がいいでしょう。
最初の抗うつ薬を飲んで効果が得られなかったからといって、あきらめないでください。薬の効き方は一人一人異なります。別の種類の抗うつ薬を試せばいいのです。通常は、十分量を一定期間継続して使用しても効果がない場合、別の種類の抗うつ薬に変更します。
なお、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、ごくまれですが、強い不安、焦燥、攻撃性、衝動性、希死念慮などを引き起こすことがあります。とくに、若い人に使う時には注意が必要です。
また、SSRIを一定期間服用していて急に中断すると、イライラ感、体の震え、違和感などの離脱症状が出現することがあります。したがってこういう薬剤を中止する際には、徐々に減らすことが原則です。

うつ病の治療の際に知っておいて欲しいこと

・誰もがかかりうる病気である。
・心が弱いからうつ病になったわけではない。
・身体のエネルギーが低下してしまった状態で、無理はきかない。
・必ず治る病気である。
・回復の過程は一進一退である。
・決して自殺だけはしない。
・入院治療という方法もある。


うつ病にかかった時には、自分が悪かったのだと考えてしまい、病気になった自分を責めることがあります。しかし、この自責的な考えは、「うつ」というエネルギーが低下してしまった特殊な状況だからこそ、生じているものです。うつ病から回復した後には、誰も、自分が悪かったから病気になったとは考えないでしょう。
うつは誰でもかかりうる病気で、「脳のカゼ」と呼ばれることもあります。身体のエネルギーが低下した状態なので、何よりも休養が必要になります。「うつ」というのは、車で言えばガソリンが底をついたようなものです。エネルギーが底をついた状況で、いくら頑張ろうと思っても、身体がついてきません。ゆっくり休むことは最良の薬です。
今は苦しくても、ゆっくり休んで薬を飲んで治療したら必ずよくなります。ほとんどの人は、3-6ヶ月で症状が改善します。
ただし、回復過程は、一進一退です。必ずしも一直線に回復するわけではありません。いい時と悪い時と波を繰り返しながら、少しずつ回復に向かっていきます。したがって、ある時点だけを見ると、症状が悪化してしまったように見え、落胆してしまうこともあります。あらかじめ、波があることを理解しておくといいでしょう。
うつ病にかかると、将来に対して悲観的になり、何の希望も持てなくなることがあります。今の苦しい状態が永遠に続くように感じることもあります。病気が治った状態というものが全く想像できないこともあります。いくら治療を受けても何も変わらないと思うかもしれません。もう死んでしまいたいと思うこともあるでしょう。しかし、きちんと治療をすれば、必ずよくなる病気です。自殺だけはしないで下さい。そういう考えが浮かんだ時には、担当医師か家族に伝えて下さい。
症状が重い場合、通院治療では効果が不十分な場合、職場や家庭から離れたほうがいいような場合では、外来治療よりも入院治療が望ましいこともあります。入院治療を希望する場合は、担当医師に相談してみましょう。
治療は、患者、家族、担当医師が互いに情報を交換しながら、最善の方法を考えていく共同作業です。今困っていること、薬を飲んでからの変化、治療についての不安、将来に対する心配など、気になることは担当医師に伝えて下さい。



周囲の人が気づくうつ病のサイン

・周囲の人には、病気の存在がわかりにくいことがある。
・言動面での変化、仕事面での変化、身体面での変化に気づくことで、治療につながることもある。


うつ病の人は、調子が悪くても一人で頑張ってしまうことが多く、周囲の人には病気がわかりにくいことがあります。しかし、うつ病の治療には周囲の支援が必要ですし、周囲の人が病気に気づくことが、治療の第一歩になることもあります。気づきやすい変化として、下にあげる3つがあります。
気になることがあれば、その人の以前の状況と比べてみるといいでしょう。その変化が長い間続いているようであれば、病的なものかもしれません。気持ちが落ち込むことは誰にでもありますが、普通は2週間もすれば回復します。それ以上続く場合には、うつ病などの可能性があります。

■言動面での変化
うつ病のサインとして最もわかりやすいのは、「口数が少なくなる」「ため息が増える」「つきあいが悪くなる」ことです。自分が思うように動けないことや、周りの人に気持ちを理解してもらえないことから、「イライラする」こともあります。

■仕事面での変化
仕事をするエネルギーが足りなくなり、遅刻や欠勤が増えたりします。仕事の進み具合が遅くなり、ミスも目立つようになります。また家事をこなすことが難しくなり、献立を考えられなくなったり、食事の支度ができなくなったりします。

■身体面での変化
「だるい」「頭が痛い」「食欲がない」などの症状を訴えるようになります。また、寝つきが悪く、早朝に目が覚めたりするため、睡眠不足に陥り、周りの人からは日中眠そうに見えます。



受診に関して

・周囲が無理に受診させることは避けたい。
・ともに問題を解決していく、という姿勢が望ましい。
・受診に同伴することも役に立つ。

最近では、精神科や心療内科のクリニック(診療所)も増え、自分から気軽に受診する人が増えています。しかし、うつ病ということを本人が認めていない場合、受診を勧めてもなかなか受け入れてもらえないことがあります。
その場合、周りの人が無理強いをしたり、行き先を告げずに突然連れていったりするのは、好ましくありません。「体重が減ったのではないか」「睡眠が十分とれていないようだ」など、具体的な症状をあげて、医療を利用するという方法があることを納得してもらうのがいいでしょう。
受診の際に、家族や周りの人が患者の言葉を補ったり、担当医師の説明を一緒に聞くことも役に立ちます。病気を治療していく上で、家族の対応は極めて重要な位置を占めます。『一人で病気に向かうのではない』という感覚は、大きな支えになります。
医師を選ぶ際には、①医師との相性、②病気について適切な説明があるか、③薬が多すぎないか、④通院しやすいか、といったことがポイントになってきます。
うつ病では、比較的長期間の治療が必要になります。基本的には、同じ医師にかかり続けるのが理想的ですが、疑問に思ったことを聞けなかったり、ひどく疲れてしまうような場合には、望ましい治療ができません。不安や疑問があれば、別の医師にセカンド・オピニオンを求めるという方法もあります。



周りの人にできること

・ゆっくり休養できる環境を整える。
・励まさない。
・重大な決断は先に延ばしてもらう。
・受診や服薬を続けられるように援助する。
・自殺には注意する。


身近な人がうつ病で苦しんでいると、誰でもどう接すればいいのか戸惑います。しかし、過度に構えてしまう必要はありません。あまりに特別な態度だと、かえって居心地が悪くなったり、自分を追いつめてしまったりすることもあります。
『うつ病というものは周りから見える以上に苦しいものかもしれない』ということを想像していれば、大きな間違いはありません。心配してあれこれと働きかけるよりも、まずはその人の話をゆっくりと聞く方がいいでしょう。せかされたり押しつけられたりすると、苦しいものです。
うつ病の人は、『頑張りたいけど頑張れない』状態です。どうにもならないのに励まされると、できない自分をみじめに感じ、ますます苦しくなってしまいます。ただでさえ焦りをつのらせやすい状態なので、周りがそれをあおらないように注意しましょう。
うつ病の人は、マイナス思考になりやすいという側面があります。退職するしかない、離婚するしかないと考えたりすることもありますが、重大な決定は回復後にしてもらった方がいいでしょう。
うつ病の治療では、薬が重要な位置を占めます。薬を飲み忘れたりしていないか気を配ったり、必要があれば通院に付き添ったりするといいでしょう。担当医師にうまく症状を伝えられないような時は、患者の了解を得た上で、今の状況を伝えることも役に立ちます。
うつ病の時は、自殺を図る可能性があります。特に回復期や、焦燥感・不安感が強い時には注意が必要です。もし、「死にたい」「自分には生きる価値がない」と言われた時には、聞き流さないようにしましょう。うつ病のために一時的にそういう気持ちになっていること、いつか必ず出口が見えてくること、自殺は絶対にして欲しくないことを伝えましょう。その上で担当医師と問題解決の方法を探っていきましょう。



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